近江学フォーラム会員限定講座「大津絵と三井寺」開講しました

講座名:「大津絵と三井寺」 ―大津絵誕生の母胎―
日 時:平成23年11月26日(土) 10:40~12:00
場 所:成安造形大学 聚英ホール
講 師:福家俊彦 氏(総本山三井寺 執事長)

近江学フォーラム会員限定講座の今年度最終回の講座が11月26日(土)、三井寺執事長の福家俊彦先生をお迎えして開催されました。
講演のタイトルは「大津絵と三井寺」。大津絵の始まりが京都から移住してきた絵師がはじめたというものや、キリスト教禁教によるものという定説に疑問を投げかけながら、三井寺の「別所」がいわゆる宗教的なアジールをつくり出し、自由な芸能活動や庚申講などの民間信仰が展開されるなかで大津絵が発生してきたという新説を提唱されました。
「三井寺別所で醸成された具体的な信仰や芸能は、庚申講、天神信仰、踊り念仏、三井寺説教節、連歌などがあげられ、それらが中世から近世に広がっていった。一方、大津絵の歴史は、今に残されている作品以外にほとんど資料がなく、実態がつかめないが、その残されている作品の画題を見ると三井寺別所で行われていた信仰や芸能に共通してくる。」と福家先生は丁寧に大津絵の発祥についての新説の根拠を解説されました。
参加者からは「天台寺門宗総本山三井寺のイメージは理解しているが、別所という独特の宗教文化を持った場所があったことは驚きである。」「大津絵の発祥のことに興味があったのでよく理解できた。」「今の芸術につながる芸能などの発祥は混沌する自由な雰囲気の場所から自然発生的に生まれるのだということがわかった。」など様々な感想を聞くことができました。

報告:近江学研究所研究員 加藤賢治

旧港町堅田を歩く

11月19日(土)、あいにくの雨模様の中、近江学Aの授業の一環で恒例となっていますフィールドワークに出かけました。
訪れたのは、湖族の郷「堅田」。午前10時にJR堅田駅に集合し、予定では徒歩ではじめの目的地「浮御堂」まで行く予定でしたが、荒天でしたので堅田町内循環バスに乗車して目的地を目指しました。
浮御堂では恵心僧都源信が平安時代に比叡山横川で修行中に炎立つ魂を鎮めるためこの地に向かい、千躰の阿弥陀仏を奉納したという伝承を解説し、また、近世の俳人松尾芭蕉がこの地に浮かぶ中秋の月を愛で俳句を詠んだ話をしました。

次に浄土真宗本福寺に向かい、その前で親鸞聖人に始まる浄土真宗が中興祖といわれる八代目の蓮如上人の活躍によって日本で最も大きな教団となる礎を築いたという解説し、
その後、浄土真宗光徳寺を訪ねて「堅田源兵衛の首」という浄土真宗に伝わる伝承について当寺のご住職にお話を伺い、伝承の大切さを学びました。


最後に堅田衆と呼ばれた自治組織の中でも指導的な立場にあったという殿原衆居初(いそめ)家の二九代目のご当主を訪ね、堅田衆の歴史と当家が管理される名勝「天然図画亭(てんねんずえてい)庭園」と茶室「天然図画亭」についての解説をじっくりと聞かせて頂きました。



堅田の街はこの他にも一休宗純ゆかりの祥瑞寺や出島(でけじま)灯台、新田義貞の妻勾当内侍の墓など、歴史的な見所が沢山あります。これは、堅田が湖上交通の要衝であった琵琶湖の最もくびれた部分に位置し、京の都に出入りする人々の往来が頻繁にあり、文化が行き来した所以であることをまとめとして解説しました。

当日は雨模様でしたが湖族の郷アートプロジェクト(本学プロジェクト実習による学生の活動)が行われており、にぎやかな湖族の街を散策しました。

湖族の郷アートプロジェクト公式サイトはこちら

公開講座『近江~魂のかたち―絵馬―』を開講しました


講座名 『近江~魂のかたち―絵馬―』
日 時 平成23年11月12日(土) 10:40~12:00
場 所 成安造形大学 聚英ホール
講 師 吉村俊昭(本学教授・近江学研究所研究員)
対 談 小嵜善通(本学教授・近江学研究所研究員)
今年から始まりました連続公開講座「近江のかたちを明日につなぐ」シリーズも今年最後の講座となりました。最後を締めくくるこの日は本学教授で附属近江学研究所の二人の研究員に担当いただきました。
タイトルは「近江〜魂のかたち〜 絵馬」。はじめに本学で日本美術史の教鞭をとる小嵜善通研究員が絵馬の起源や近江に現存する絵馬やその種類について解説され、続いて絵馬などの板絵の表現技法の研究と修復を手がける吉村俊昭研究員が、近江の絵馬の特徴や修復の技法について丁寧に語っていただきました。
「絵馬の起源は奈良時代にさかのぼり、呪術的な要素として天変地異や疫病を鎮めるために生きた馬を神に捧げることが行われ、やがて絵に描かれ奉納されるようになった。」「日野の馬見岡綿向神社や愛荘町の豊満神社には非常に貴重な大絵馬が存在し、綿向神社には厩と猿・日野祭礼・歌舞伎・馬、豊満神社には平敦盛・牛若丸弁慶・黒馬・坂上是則など様々な画題が描かれている。」など、興味深い「絵馬」のすべてが二人の解説の中で紹介されました。
最後に文化財の模写について、模写の種類や、模写の筆法、絵の具の調合の話しなど、貴重な話を聞くことができ、普段覗くことのできない模写の現場について知る機会となりました。
報告:近江学研究所研究員 加藤賢治 

近江学フォーラム会員限定講座「近江のオコナイ」を開講しました

講座名:「近江のオコナイ」
日 時:平成23年10月29日(土) 10:40~12:00
場 所:成安造形大学 聚英ホール
講 師:中島誠一 氏(長浜市曳山博物館 副館長)

今年度第4回目となります近江学フォーラム会員限定講座が10月29日(土)開催されました。今回は「近江のオコナイ」と題して、この研究の第一人者である長浜市曳山博物館副館長の中島誠一先生にご登壇頂きました。
「オコナイ」とは近江の中では湖北地域と甲賀地域に今も伝わる祭礼で、巨大な餅を飾り、造花による飾り付け、乱声(らんじょう)や牛玉宝印(ごおうほういん)の授与など五穀豊穣や大漁、家内安全などを祈願する特徴的な儀礼を行う。また、天台宗との関わりも指摘され、近江に限らず西日本を中心としながら全国に広がっている。など、はじめに「オコナイ」の特徴を詳しく解説されました。
後半はスライドで近江各地の特徴的な「オコナイ」の様子を投影され、飾りの荘厳さや、餅の大きさ、また籤(くじ)や順番で決まった「トウヤ」を中心に厳格に行われる儀礼について臨場感を持って解説頂きました。
近江は宮座の宝庫と呼ばれ、鎮守の森の神社を中心とした祭礼が多く残っていますが、「オコナイ」という仏教色が濃い新春の行事が形を異にしながらこのように残っていることを知り、近江の伝統文化の深さを改めて感じました。

報告:近江学研究所研究員 加藤賢治

連続公開講座『近江~魂のかたち―木彫―』開講しました。

講座名 『近江~魂のかたち―木彫―』
日 時 平成23年10月1日(土) 10:40~12:00
場 所 成安造形大学 聚英ホール
講 師 江里康慧氏(仏師)
対 談 加藤賢治(近江学研究所研究員)

「近江のかたちを明日に繋ぐ」連続公開講座の最終章「魂のかたち」ということで、今回は京都岡崎の工房で「仏師」として活躍される江里康慧先生にご登場いただきました。初めの50分間は基調講演として江里先生が仏像彫刻の歴史と近江の関わりについて話されました。奈良時代から平安時代までの彫刻史をその時代背景とともに丁寧に解説され、その中で、混迷の奈良時代から平安時代に入って最澄が登場した。その影響の強い天台様式の仏像は、「一切衆生悉有仏性(すべてのものに仏性が宿り皆が仏になれる)」という天台の教えに基づき、仏性が宿る白木の木造仏が多くなる。ここ近江にはそのような仏様が多く伝わっているとその要旨を語られました。
 その後、近江学研究所研究員の私加藤が、対談者として登壇させていただき、仏師としての江里先生にスポットを当て、仏像制作の様子をたずねました。
霊性をおびた木を選ぶことや、鑿(のみ)を入れる前に願主を迎えて鑿入式という儀式を行うこと、截金(きりがね)という技法を使い装飾することなどたくさんの貴重なお話を聞くことができました。
 中々普段うかがうことのできない精神性の深い仏像制作の一場面を知ることができ、140名を超える受講者の方々も満足そうに見えました。
報告者:近江学研究所研究員 加藤賢治

公開講座「近江の寺と城」開講しました

講座名:「近江の寺と城」
日 時:平成23年9月24日(土) 10:40~12:00
場 所:成安造形大学 聚英ホール
講 師:下坂守氏(奈良大学 教授)

中世と呼ばれる鎌倉、室町時代は強大な中央権力が弱く、寺院や町衆など様々な新興勢力の台頭など非常に複雑で捉えにくい時代である。その中世を僧侶(寺)と武士(城)の対立を中心として奈良大学文学部教授下坂守先生に語っていただきました。
下坂先生は、中世は寺院の勢力が最も強く、大きく時代の流れに影響を与えたということを前提に、「仏法(仏教勢力)」と「王法(朝廷)」のバランスによってこの時代が成立していたと多くの文献を紹介しながらこの時代の特徴を述べられました。
やがて、新興の武士団勢力が台頭してくると、武装化した寺院と武士団の対立が激化し、寺院建築物も城塞化していった。交通の要衝にあたる近江は観音寺城に代表されるように寺院要塞がたくさんあったことで知られる。そしてその最終戦争として織田信長の比叡山延暦寺の焼き討ちが行われ、中世の時代が終焉を迎えた。
下坂先生はこのような視点で中世の時代を説明され、織田信長は延暦寺の焼き討ちは単に、武士に反旗を翻したから行ったのではなく、仏教勢力と朝廷の権力(仏法と王法)を根本から覆すために行ったと中世の時代の最後をまとめられました。
報告:近江学研究所研究員 加藤賢治

近江学フォーラム会員限定講座「江戸の里山を歩く」開講しました。

講座名:「江戸の里山を歩く」
日 時:平成23年9月17日(土) 10:40~12:00
場 所:成安造形大学 聚英ホール
講 師:水本邦彦氏(長浜バイオ大学 教授)

近世江戸時代の農村の風景はいかなるものであったのか。浮世絵に見る山の風景は現代のように木々が茂っている山が少なく、土砂山や草山が描かれている。近世農村生活に関する最新の研究成果を京都府立大学名誉教授、長浜バイオ大学教授で本学附属近江学研究所学外研究員である水本邦彦先生に報告いただきました。
 近世農業史や生活史の中に、「草肥(くさごえ)」や「刈敷(かりしき)」という草や小木を利用して農地に栄養を与える農法が見え、当時は草や小木を得るための草山や柴山が農村に必要とされていたことがわかる。また、別の文献からはその草山を巡って争いごとが頻繁に起こった記録も残っている。など、浮世絵の風景にあるように今とは違った風景が江戸時代にあったと述べられました。
 今まで、仰木の棚田や鎮守の森の風景を見ながら江戸時代の風景を追体験してきましたが、水本先生の講演でその考え方を改めなければならないと知らされました。また、江戸時代にも人口が増える時期があり、多くの木々が伐採されると洪水や土砂災害が発生し、人々を苦しめたという史実も読み取れました。
 その規模の大小は別として、いつの時代も人々は自然を改造し、そのしっぺ返しを受けてきたことも今回の報告で改めて知ることができました。
報告:近江学研究所研究員 加藤賢治

連続公開講座「近江~風景のかたちー心象絵図ー」開講しました

講座名 『近江~風景のかたち―心象絵図―』
日 時 平成23年7月9日(土) 10:40~12:00
場 所 成安造形大学 聚英ホール
講 師 上田洋平氏(滋賀県立大学地域づくり調査研究センター研究員)
対 談 永江弘之

好評をいただいております今年度の連続公開講座「近江のかたちを明日につなぐ」シリーズ4回目となりました今回(7月9日)は滋賀県立大学地域づくり教育研究センター研究員の上田洋平先生をお招きして、心象絵図についてお話しいただきました。
基調講演は2008年に上田先生と本学の学生さんが共に取り組みをさせていただきました「南比良ふるさと絵屏風」について絵解きをしていただくかたちで始まりました。
この絵屏風は地域のお年寄りを中心に聞き取りをして、特に印象に残った大切なものを丁寧に描き込んでいくというもので、50年〜60年、70年くらいの少し昔の懐かしい人々の暮らしがとけ込んでいます。
講座の中で上田先生は、この取り組みは単に懐かしいものを描くだけのものではなく、聞き取りをすることや、完成した絵屏風をみんなで見ながら会話をするなど、お年寄り同士やお年寄りと次世代を担う人々とのコミュニケーションの機会となる大変重要なプロジェクトであるとその意義を強調されました。
後半は近江学研究所研究員の永江弘之先生が聞き手となり、記録と記憶の違いや体験したものを思い出しそれを表現するというこの絵屏風の魅力について問いかけられました。上田先生はかつて体験した自分にとって忘れることのできない大切な物事、すなわち過去の記憶を引き出し、お年寄りがそのことを共有して交流するということは本人たちにとっても地域にとっても有意義なことであり、未来の社会のあり方を考えるヒントにもなると語られました。
人間は入ってきた情報のほとんどをどんどん忘れていきます。逆に今記憶に残っているということは大変大切なことであるということが言えます。その大切が詰まった絵屏風。やさしい語り口調で解説いただき、150名を越えるたくさんの参加者の皆さんは上田先生から大切なものをいただかれたのでは・・・。
報告:近江学研究所研究員 加藤賢治

近江学フォーラム会員限定講座「中世、仏像と人々の時代」開講しました。

講座名:「中世、仏像と人々の時代―銘文から仏像を取り巻く社会を探る―」
日 時:平成23年7月2日(土) 10:40~12:00
場 所:成安造形大学 聚英ホール
講 師:高梨純次氏(滋賀県立近代美術館 学芸課長

平安時代後半(十一世紀)から鎌倉時代を中心として、仏像に記された銘文や胎内納入品の記録などから、仏像を取り巻く社会や信仰する人々の思いなどを考察しようと、日本彫刻史がご専門で滋賀県立近代美術館の高梨純次先生に語っていただきました。
 仏像に刻まれた銘文を読むといつ誰がどこで何のためにこの仏像を制作したのかという様子が分かり、生産性の高い地域である近江の仏像にはしっかりとした銘文が残る仏像が多い。また、近江の中世の仏像には一つの仏像に多くの人名を見ることができる。と中世近江の仏像の概略を語られることから始まりました。
 その上で、延久六年(一〇七四)称念寺の木造薬師如来立像、長承二年(一一三三)善明寺の木造阿弥陀如来坐像、嘉応二年(一一七〇)福寿寺の木造千手観音立像など一一世紀から一二世紀の仏像に多くの人名が見られるが、おそらく仏像を中心として地域社会の血縁が結ばれ、信仰とともにその地域が一つとなっていた証として考えられると述べられました。
 今回の講座で、現代社会においても小さなコミュニティーの存在が重要視されていますが、中世の村落では仏像を中心として固く結束した理想のコミュニティーが存在していたことを知りました。
 
報告:加藤賢治(附属近江学研究所研究員)

連続公開講座「近江~風景のかたちー琵琶湖と丸子船ー」開講しました

講座名 『近江~風景のかたち―琵琶湖と丸子船―』
日 時 平成23年6月25日(土) 10:40~12:00
場 所 成安造形大学 聚英ホール
講 師 津田直氏(写真家)
対 談 木村至宏   

江戸時代から戦前まで琵琶湖の湖上交通の主役であった「丸子船」。現在その勇姿を湖上に見ることはできません。丸子船が消えてしまった琵琶湖の風景を写し、展覧会を通して「漕(こぎ)」という一冊の本を出版したという写真家津田直(つだなお)氏を講師に迎えました。
はじめの50分間は津田先生の著書「漕」の解説をスライド中心に行っていただき、斬新な写真表現の世界と近江の風景について語っていただきました。
津田先生ご本人がかつては船でしか行くことのできないことから陸の孤島と呼ばれた湖北菅浦集落に入り、現代にはなくなってしまった丸子船の幻影を追いつつ、須賀神社の参道の階段を裸足で登った経験から、今の風景を目で見るのではなくその場の歴史や人の営みを足裏で感じ取るという感覚をそこで学んだと話されました。
また、丸子船をつくる技術を持つ造船所を訪ねたとき、その船大工の棟梁が木造船を造る材料となる木にまず祈りを捧げてから切り出すということを聞き、船自体が森であると感じたなど、丸子船自体が単なる湖上交通に使われる道具ではなく、それを使用する人々の一部として同化しているように思ったと、独自の自然観が語られました。
その後、附属近江学研究所木村至宏所長との対談があり、木村所長は「見えないものを撮る」という津田先生の写真家としての活動の方向性に共感され、過去の暮らしの知恵を今後の生活に活かせるよう様々な取り組みを続ける近江学研究所の指針と重なって見えたと感想を述べられました。

報告:近江学研究所研究員 加藤賢治

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