講座名:「中世、仏像と人々の時代―銘文から仏像を取り巻く社会を探る―」
日 時:平成23年7月2日(土) 10:40~12:00
場 所:成安造形大学 聚英ホール
講 師:高梨純次氏(滋賀県立近代美術館 学芸課長

平安時代後半(十一世紀)から鎌倉時代を中心として、仏像に記された銘文や胎内納入品の記録などから、仏像を取り巻く社会や信仰する人々の思いなどを考察しようと、日本彫刻史がご専門で滋賀県立近代美術館の高梨純次先生に語っていただきました。
 仏像に刻まれた銘文を読むといつ誰がどこで何のためにこの仏像を制作したのかという様子が分かり、生産性の高い地域である近江の仏像にはしっかりとした銘文が残る仏像が多い。また、近江の中世の仏像には一つの仏像に多くの人名を見ることができる。と中世近江の仏像の概略を語られることから始まりました。
 その上で、延久六年(一〇七四)称念寺の木造薬師如来立像、長承二年(一一三三)善明寺の木造阿弥陀如来坐像、嘉応二年(一一七〇)福寿寺の木造千手観音立像など一一世紀から一二世紀の仏像に多くの人名が見られるが、おそらく仏像を中心として地域社会の血縁が結ばれ、信仰とともにその地域が一つとなっていた証として考えられると述べられました。
 今回の講座で、現代社会においても小さなコミュニティーの存在が重要視されていますが、中世の村落では仏像を中心として固く結束した理想のコミュニティーが存在していたことを知りました。
 
報告:加藤賢治(附属近江学研究所研究員)