近江学フォーラムニュース

川本桂子氏:2014近江学フォーラム会員限定講座 第4回

講師 美術史家の川本桂子先生

講師 美術史家の川本桂子先生


日時:2014年11月15日(土)10:40~12:10
場所:成安造形大学 聚英館3階 聚英ホール
講師:川本 桂子氏(美術史家・大津市文化財専門委員会委員)
タイトル:「描かれた近江の風景と人びとの生活」
近江を描いた絵画作品は多岐に及びますが、今回はいずれも室町時代後期に描かれた「桑実寺縁起絵巻」(近江八幡市・桑実寺)、「大徳寺瑞峯院檀那の間の堅田図襖絵」(東京・静嘉堂文庫美術館)、「日吉山王祭礼図屏風」(東京・サントリー美術館)、「近江名所図屏風」(滋賀県立近代美術館)についてご講演をいただきました。「桑実寺縁起絵巻」では、絵巻中に展開する安土周辺のみごとな俯瞰描写の紹介とともに、第12代将軍足利義晴による絵巻制作の意図についても詳しく触れていただきました。「堅田図襖絵」では、山側から捉えられた中世末の堅田の光景や人びとの暮らしぶりを数多くのスライドを用いて解説いただきました。また「日吉山王祭礼図屏風」や「近江名所図屏風」では唐崎の松や坂本あたりの当時の様子も知ることができました。最後には、狩野永徳による安土城図屏風や安土城の御殿に描かれていた三上山真景図についてもお話をいただきました。16世紀半ばころの近江にタイムスリップしたかのように感じられる90分でした。
(報告:小嵜善通 本学教授・近江学研究所研究員)
川本先生の論文を読み学んだという、小嵜善通研究員(本学教授)にから川本先生のご紹介を行いました。

川本先生の論文を読み学んだという、小嵜善通研究員(本学教授)にから川本先生のご紹介を行いました。


たくさんのスライドを基に、歴史的絵画を解説された

たくさんのスライドを基に、歴史的絵画を解説された



講座内容:
近江の社寺には、儀式や礼拝のために使われる神や仏の姿を描いた宗教美術のほかに、縁起絵巻や参詣曼荼羅、屏風や障壁画などの鑑賞用の絵画作品も多く伝えられています。今回は、そうした様々なジャンルの絵画において、近江の土地や風景がどのように描かれてきたか、人びとの信仰と生活がどう表現されているのかを見ていきたいと思います。
プロフィール:
1951年京都市生れ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位修得満期退学。
日本の中近世絵画史が専門。近江出身の画家海喜多友松や狩野山楽についての著作『友松・三楽』(小学館1992)や桑実寺縁起絵巻の筆者である土佐光茂や安土城で活躍した狩野永徳についての研究(『狩野永徳』(新潮社1997))がある。

第六回近江学フォーラム現地研修「湖南の仏像を訪ねて」開催

パンフレット表紙

パンフレット表紙


10月5日(日)、第6回目となる近江学フォーラム現地研修が行なわれました。
今年のテーマは、「湖南の仏像を訪ねて」です。
近江学フォーラム会員限定講座として、7月12日(土)に「近江の仏像とその見方」と題して、大津市歴史博物館学芸員の寺島典人氏より講演いただき、現地研修に向けての事前勉強を行ないました。
今回の研修では、湖南三山である天台密教の3ケ寺「長寿寺」「常楽寺」「善水寺」と、浄土宗で素晴らしい観音菩薩を守りする「正福寺」の4ケ寺をめぐる企画でした。
湖南の仏像を訪ねてマップ

湖南の仏像を訪ねてマップ


当日は、台風が迫る中、降水確率が80%と発表されていたにも関わらず、小雨が時折降る程度の天候に恵まれ、83名の参加者のみなさんと研究員・職員12名は、予定通り9時に守山駅を、バス2台で出発をしました。
現地研修の講師は恒例となっている木村所長。進行役はこれも恒例の加藤研究員が担当しました。
1、長寿寺
長寿寺では、国宝である本堂の特徴や、寺を開基した良弁和尚についての木村所長の解説を受けて、本堂へあがりました。
住職の奥さまから、とてもわかりやすく楽しい心にひびく法話を聞かせていただき、本堂の内陣に収蔵されている仏様を拝観しました。境内にはいたるところに季節の花が活けられており、心躍る1ヶ寺目となりました。
長寿寺楼門(撮影:津田睦美研究員)

長寿寺楼門(撮影:津田睦美研究員)


長寿寺の本堂前にて( 撮影:津田睦美研究員)

長寿寺の本堂前にて(
撮影:津田睦美研究員)


講師の木村至宏所長、進行役の加藤賢治研究員

講師の木村至宏所長、進行役の加藤賢治研究員


長寿寺本堂

長寿寺本堂


手水には鮮やかなダリアが。

手水には鮮やかなダリアが。


2、常楽寺
常楽寺は、国宝の本堂と三重塔という天台密教の古来のかたちがそのまま残されています。まず、本堂にて住職さまより寺院のいきさつをお聞きし、木村所長より本堂の内陣・外陣や境や天井の造形についての解説がありました。
常楽寺には、本尊千手観音菩薩(秘仏)を守護する「木造二八部衆立像」が立ち並んでおられ、圧倒的なお姿を拝観しました。また、後陣には、歴史の中で収蔵されてきた貴重な仏様の数々を拝観しました。
常楽寺 本堂

常楽寺 本堂


常楽寺 国宝 三重塔

常楽寺 国宝 三重塔


昼食は、地元のお食事処「やまりゅう」へ。
昼食後は、木村所長によるミニレクチャー。湖南仏教圏であるこの地域にまつわる歴史・文化のお話がありました。

大広間にて昼食後のレクチャー

大広間にて昼食後のレクチャー


木村至宏所長

木村至宏所長


3、善水寺
善水寺では、ご住職の熱のこもった寺宝の解説を聞くことができました。荘厳な空間の中に配される仏様のかたちは、比叡山延暦寺を模して造られたものだとのこと。
また、秘仏である「金銅釈迦誕生仏立像」を特別拝観させていただきました。日本で2つしかない、手のひらを広げて天地を指す誕生仏。
とても有難いお姿を拝観できました。
善水寺 本堂

善水寺 本堂


広い縁を通り、堂内へ (撮影:津田睦美研究員)

広い縁を通り、堂内へ
(撮影:津田睦美研究員)


寺名の由来となった「天皇を救った湧水」を味わいました。(撮影:津田睦美研究員)

寺名の由来となった「天皇を救った湧水」を味わいました。(撮影:津田睦美研究員)


4、正福寺
正福寺では、ご本尊の大日如来がおられる本堂と、素晴らしい十一面観音が3体など寺宝が収蔵されている観音堂の2グループにわかれて、解説を聞きました。
十一面観音のお姿は、ため息が出るほど美しく、この地で長く守られていることがとても貴重に感じました。
正福寺 本堂(撮影:津田睦美研究員)

正福寺 本堂(撮影:津田睦美研究員)


正福寺 観音堂

正福寺 観音堂


5、アグリの郷 栗東
最後の帰り道では、道の駅「アグリの郷栗東」を訪ねました。
地元の安全でおいしいものを買い込んで、一路、守山駅に戻りました。
アグリの郷 栗東

アグリの郷 栗東


この日は、小雨の降ることもありましたが、お寺の庭園もしっとりと美しく、
また台風前ということもあり、貸切の状態でお寺をめぐることができました。
仏様と対話するように、じっくりと向かい合う現地研修となりました。
ご参加いただき、ありがとうございました。
(撮影:津田睦美研究員)

(撮影:津田睦美研究員)


(報告:大原歩)

【台風18号接近に伴う近江学フォーラム現地研修について】

10月5日(日)開催の第六回近江学フォーラム現地研修「湖南の仏像を訪ねて」にご参加のみなさまへ
本日(10月4日)現在、近江学フォーラム現地研修は、予定通り実施いたします。
台風18号の接近のため10月5日(日)が荒天になった場合、やむなく中止の判断をする場合があります。
中止のご確認は、10月5日(日)の朝6時30分以降に、成安造形大学代表番号(077-574-2111)まで、
お手数をおかけいたしますが、お電話をおかけくださいますよう、お願い申し上げます。

松浦俊和氏:2014近江学フォーラム会員限定講座 第3回

日時:2014年9月27日(土)10:40~12:10
場所:成安造形大学 聚英館3階 聚英ホール
講師:松浦 俊和氏(大津市埋蔵文化財調査センター長)
タイトル:「古代寺院跡を探る」

講師の松浦俊和先生

講師の松浦俊和先生


今年3回目のフォーラム会員限定講座が9月27日(土)に開催されました。
今回は、近江の仏教文化をテーマとして「古代寺院跡を探る」と題し大津市埋蔵文化財調査センター長の松浦俊和先生にご登壇いただきました。

講義は、発掘された寺院の瓦のデザインをもとに、古代寺院の歴史をひもとくという大変興味深いものでした。
当時の寺院建築に使用された軒丸瓦は、中央の円形部分に蓮の花びらをモティーフとしたデザインが施され、花びらが単弁のものは渡来系氏族の、復弁のものは朝廷の支配下にある官寺であるといわれている。特に大津の寺院跡には単弁のものが多く出土するため、大友氏をはじめとする渡来系氏族の力が強かったことがうかがえる。南志賀廃寺には、蓮の花を横から見た「サソリ型」と呼ばれる特殊なデザインの瓦が出土し、この地域のみの特徴を示しているなど、詳しい解説がありました。
また、壬申の乱の大海人皇子軍が動いた後の遺跡に藤原宮式という特徴を持つ瓦が出土するという興味深い事例も紹介されました。この日の講義は16ページに及ぶ丁寧な資料をもとにわかりやすく近江の仏教に基づく古代史を解説いただきました。


寺島 典人氏:2014近江学フォーラム会員限定講座 第2回

日時:2014年7月12日(土)10:40~12:10
場所:成安造形大学 聚英館3階 聚英ホール
講師:寺島 典人氏(大津市歴史博物館学芸員)
タイトル:「近江の仏像とその見方」

寺島典人氏

寺島典人氏


 7月12日(土)、近江学フォーラム会員限定講座「近江の仏教文化」シリーズ第2弾、
「近江の仏像とその見方」を開催しました。
 講師には、大津市歴史博物館学芸員で仏像の調査・研究がご専門の寺島典人先生にご登壇いただきました。
 この日は、湖南市の古刹をめぐる現地研修(10月5日開催)のための事前講義として設定しており、専門的な仏像研究の話ではなく、現地研修で拝観する仏像の種類や、信仰のかたち等をわかりやすく紹介していただきました。
 はじめに、仏像の基本として、釈迦誕生仏から、苦行像、涅槃像、仏舎利、塔の紹介、そして、インドのバラモン教から異端派として登場してきた仏教の六道輪廻転生という思想の解説がされました。
如来の印を学ぶ受講者のみなさん

如来の印を学ぶ受講者のみなさん


 そのうえで、仏像を①如来部、②菩薩部、③明王部、④天部という4つのグループにわけて解説いただきました。
具体的には、釈迦如来や西方極楽浄土の阿弥陀仏、大日如来の手のかたちや、観音菩薩が三十三に姿を変えることや、不動明王の不思議、梵天・帝釈天の偉大さなど、少ない時間でしたが複雑な仏像の形式を詳しくまたわかりやすく解説いただきました。

 最後には神仏習合や本地垂迹など神像の話しにも触れられ、近江の仏像を中心としながら信仰の深さを知ることができました。
講座修了後、「仏像のわからなかった難しいところを教えていただき、現地研修が楽しみです」「先生の話し方がわかりやすく大変勉強になりました」など満足度の高いメッセージをたくさんいただきました。
報告:加藤賢治(近江学研究所研究員)
寺島 典人氏 プロフィール
1969年北海道札幌市生れ。神戸大学大学院文化学研究科博士課程中退。仏教美術(彫刻史)専門。

宇佐美英機氏:2014近江学フォーラム会員限定講座 第1回

日時:2014年6月28日(土)10:40~12:10
場所:成安造形大学 聚英館3階 聚英ホール
講師:宇佐美 英機氏(滋賀大学教授)
タイトル:「近江商人と信仰」

宇佐美英機氏

宇佐美英機氏


6月28日(土)、今年度1回目の近江学フォーラム会員限定講座を開催しました。
今年度の会員限定講座は、合計5回の限定講座に一つのテーマ(今年度は「近江の仏教文化」)を設けました。これは、会員の皆様からのご要望におこたえしたもので、毎年行っています現地研修内容も限定講座に関連させました。
そのこともあり、今年度は多くの会員様に入会いただき、会員限定講座初回の今回も今までになくたくさんの参加者に来場いただきました。

この日の演題は、「近江商人と信仰」。近江商人研究の第一人者である滋賀大学経済学部教授の宇佐美英機先生にご登壇いただきました。
宇佐美先生は「今までも、近江商人が信仰心に富んだ人々であったいわれてきたが、決して信仰がもとになって商人が生まれてきたわけではない」としながら、「豊郷町出身の初代伊藤忠兵衛の信仰心と商売の関わり方を通じて、その接点を探ることは非常に意味がある」と語られました。
滋賀大学経済学部附属史料館所蔵 「中井源左衛門家文書 後発見

滋賀大学経済学部附属史料館所蔵
「中井源左衛門家文書 後発見


最後に、「近世江戸時代には、確かに仏教や儒教を中心とした価値観や行動規範が存在し、例えば世間のために奉仕をするという考え方は商人の活動に限らず多くの人々が道徳として持っていた。明治に入り合理主義が流入したことで、それらの信仰心や道徳が薄れてきたことは誰もが認識していることである。今、近江商人も含め、近世の信仰、価値観、道徳心を再度かえりみて、現代社会の社会に生かしていくことが求められている」とまとめられました。
報告:加藤賢治(近江学研究所研究員)
宇佐美 英機氏 プロフィール
1951 年福井県生れ。同志社大学大学院文学研究科博士課程前期修了。京都大学博士(文学)。滋賀大学経済学部教授。経済学部附属史料館長。主に日本経営史を研究、とりわけ近江商人の経営・社会活動を研究。近年は伊藤忠兵衛家、伊藤長兵衛家の分析にとりかかっている。主な著作『初代伊藤忠兵衛を追慕する―在りし日の父、丸紅、そして主人』、『近世京都の金銀出入と社会慣習』、『近世風俗志(守貞謾稿)』などがある。第7 回徳川賞(佳作)、第26 ハン六学術賞受賞。

2014年度近江学フォーラム会員募集開始!

バナー画像 会員募集2014のコピー

近江学研究所の会員制「近江学フォーラム」の2014年度会員募集を開始しました。
滋賀県(近江)の持つ豊かな自然と歴史、文化に対し、興味・関心のある方、ご自身の持っている知識や見聞を深めたい、広げたいとお考えの方は、是非会員にお申込ください。
2014年度から近江学フォーラムは、1年を通して1つのテーマを多角的に学びます。
2014年度の特集テーマは《近江の仏教文化》です。
みなさまの近江学フォーラムへのご参加をお待ちしております。
2014年度近江学フォーラムの期間は、2014年4月1日~2015年3月31日です。
会員は随時募集しております。※途中入会でも年会費は同額です。
 >> 詳しくはこちらをご覧ください

米田 実氏:近江学フォーラム会員限定講座 第5回

日時:2013年12月14日(土)10:40~12:10
場所:成安造形大学 聚英館3階 聚英ホール
講師:米田 実氏(日本民俗学会評議員)
タイトル:「民俗の力―近江の地域史と伝承―」

講師:米田実氏

講師:米田実氏


今年度のフォーラム会員限定講座の最終回は、日本民俗学会評議委員で甲賀市教育委員会事務局
歴史文化財課市史編さん室室長の米田実先生にご登壇いただきました。
 講演は「民俗の力 –近江の地域史と伝承−」と題し、甲賀市油日の油日神社や「奴振り」で
知られる油日祭りを例に挙げながら、急速に変わりつつある祭礼について語っていただきました。
 はじめに、祭礼のような無形の民俗文化財は、国宝や重要文化財のようないわゆる有形の
文化財と違って、伝承として受け継いできた人物がいなくなればその時点で無くなってしまう
非常にはかない文化財であるとしながら、歴史資料ともなる貴重で素晴らしいものであると紹介されました。
 それらの祭礼が、高度経済成長の時代から急速に形を変え、農村と都市の境が曖昧となってきている近年、
伝統の祭礼を何のためにやっているのかという問いかけに答えられず、重層的で複雑な村落の
素晴らしい儀礼が簡素化あるいは消滅する場合も多くなってきているとの現状も報告されました。
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 講義の終盤には、五年に一回行われるという油日祭りの「奴振り」を紹介する映像が流され、
その祭礼を見ることで近世の村組織の構造が理解できることや、それらを後世に伝えることで
村の人々の絆が深まって行く現状を理解することができました。
 民俗文化財を継承することは、第三者として村の外から見れば美しいものであるかもしれないが、
それらを受け継ぐために祭礼を行っている村の人々の苦労は計り知れない。その両面を知りながら、
現代の民俗文化財のあり方を常に考えなければならない。
今回の講座では民俗の持つ素晴らしき「力」と、その継承の難しさを改めて学ぶことができました。
報告:附属近江学研究所研究員 加藤賢治 
講師プロフィール
1959年大津市生れ。立命館大学経済学部卒、同文学部史学科中退。日本民俗学とくに祭礼文化史に関心を持ち、滋賀県内を中心に調査・研究を進め、各自治体史などに執筆する。現在甲賀市史編さん室勤務。日本民俗学会評議員
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寺島典人氏:近江学フォーラム会員限定講座第4回開講

日時:2013年11月16日(土)10:40~12:10
場所:成安造形大学 聚英館3階 聚英ホール
講師:寺島 典人氏 (大津市歴史博物館学芸員)
タイトル:「快慶とその弟子行快-仏師の癖と分業-」

寺島典人氏

寺島典人氏


11月16日(土)、近江学フォーラム会員限定講座の4回目が開催されました。
今回は、「快慶とその弟子行快」と題して、大津市歴史博物館学芸員の寺島典人先生にご登壇いただきました。
新進気鋭の研究者である寺島先生を紹介する木村所長

新進気鋭の研究者である寺島先生を紹介する木村所長


寺島先生は美術史の中でも彫刻史がご専門で、今回は、前段で仏像がいつ頃、誰によって制作されたかを
判定する手段をわかりやすく解説していただきながら、後半は、その中でも非常に多く作品が残る快慶と
その弟子行快について、作風やその判定に関する最新の研究成果を発表していただきました。
はじめに、仏像の基礎知識をプリントで学びました

はじめに、仏像の基礎知識をプリントで学びました


寺島先生は、仏像の顔や、全体のスタイル、衣紋は仏像の制作を依頼する人の意向が反映され、
仏師の個性や特徴が出にくいが、耳や手足、指など造形的にあまり重要でない部分に仏師の癖などが
見られると解説され、最新の研究として仏像の耳を対象にした調査の事例を示されました。
耳のかたちだけですべてが解るわけではないが、仏像を刳り貫いた様子や、その他の造形的な特徴、
そしてそこに書かれた墨書(銘文)もすべて含めて、誰がいつ頃何のために制作したかが
徐々に解ってくるという地道な研究の姿を知ることができました。

今回、寺島先生にお話しいただいた研究内容は、今年の12月に発刊が予定されている
小学館の『日本美術全集7 運慶・快慶と中世寺院』の中で発表されるということです。
その難しい研究内容を丁寧な資料とともに、解りやすく解説いただき、終了後のアンケートにも
「難しい仏像の研究を解りやすく紹介していただき、新しく知ることがたくさんありました。」と
満足度の高い回答がいくつもありました。
報告:附属近江学研究所研究員 加藤賢治 

第五回近江学フォーラム現地研修「琵琶湖から見る近江八景~沖島上陸」開催

近江学フォーラム現地研修 チラシ
10月5日(土)、第5回目となる近江学フォーラム現地研修が行なわれました。
今年のテーマは、「琵琶湖から見る近江八景」と「沖島散策」です。
近江八景については、近衛信尹(1565〜1614)が膳所城からの眺望を和歌で詠み、その風景を八つにまとめたものが「近江八景」であったと証明される資料が昨年9月に研究者によって明らかにされたことを受け、研究所では湖上からその風景を新たに再確認しようとこの企画が立ち上がりました。
そして、沖島については、今年の6月に沖島が湖に浮かぶ島としては初めて「離島」の認定を受けたということで、沖島の歴史や現在のくらしを学ぶため、八景巡りに加えて島を訪問する計画が追加されました。
この日の降水確率が70%と発表されていたにも関わらず、なんとか雨も降らず、時折日差しもさすという天候に恵まれ、76名の参加者を乗せて琵琶湖汽船のエコクルーズ船「megumi」は予定通り10時に大津港を出港しました。

近江八景を解説する木村至宏所長

近江八景を解説する木村至宏所長


加藤賢治研究員

加藤賢治研究員


現地研修の講師は恒例となっている木村所長。進行役はこれも恒例の加藤研究員が担当しました。
出航後すぐの冒頭、所長の挨拶がありましたが、そのまま近江八景の講義へ。木村所長の軽快で明快な解説を聞きながら、三井晩鐘、粟津晴嵐、石山秋月、瀬田夕照、矢橋帰帆、唐崎夜雨、堅田落雁、比良暮雪の八ヶ所の名勝を船上から眺めました。特に、八景の美しさを詠った近衛信尹の歌と松尾芭蕉の俳句が資料で紹介され、和歌や句を鑑賞しながら、湖岸の風景を楽しみました。
航路
船上から見えた「堅田・浮御堂」

船上から見えた「堅田・浮御堂」


琵琶湖大橋をくぐると、いよいよ沖島です。源氏の7名の武将がこの島に住んだことに始まる沖島の歴史が木村所長によって語られ、加藤研究員が沖島の見所をスライドで紹介しました。沖島小学校前の栗谷港に入港。記念撮影のあと、自由散策となりました。自動車が一台も無く、変わって三輪自転車がいたるところに駐車されているという島の道は狭く、平地に密集する民家の間を散策しながら、神社やお寺を巡り、漁村の雰囲気を堪能しました。
沖島西側のさんばし

沖島西側のさんばし


沖島 西福寺

沖島 西福寺


奥津島神社から (撮影20130827)

奥津島神社から (撮影20130827)


昼食は沖島で水揚げされた湖魚料理です。沖島漁業会館に再集合してお弁当をいただきました。お弁当を前に、漁業組合組合長の森田正行さんをお迎えし、湖魚の料理の説明と、沖島独特の漁業や島民の生活、後継者不足などの島の課題など貴重なお話を聞かせていただきました。
沖島 漁業会館

沖島 漁業会館


森田正行 沖島漁業協同組合長

森田正行 沖島漁業協同組合長


湖魚づくしの絶品のお手製お弁当

湖魚づくしの絶品のお手製お弁当


島を後にして、帰路につきましたが、途中、近江の厳島といわれる白鬚神社と湖上にそびえる鳥居を眺め、そこでも木村所長から近世の白鬚信仰の話など興味深い解説がありました。
船上からみる「白髭神社」

船上からみる「白髭神社」


この日は、雲が多い空模様でしたが、湖面の波は穏やかで、琵琶湖を囲む山々の稜線は霧にかすみながらも確認でき、まさに墨絵のような世界を湖上で体験することができました。四校(現金沢大学)漕艇部の悲劇を歌った「琵琶湖哀歌」やその旋律のもととなった三校(現京都大学)漕艇部に由来する「琵琶湖周航の歌」が船内に流れ、二度と味わうことができない琵琶湖旅情を体感しました。

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