近江学フォーラム会員限定講座「近江のオコナイ」を開講しました

講座名:「近江のオコナイ」
日 時:平成23年10月29日(土) 10:40~12:00
場 所:成安造形大学 聚英ホール
講 師:中島誠一 氏(長浜市曳山博物館 副館長)

今年度第4回目となります近江学フォーラム会員限定講座が10月29日(土)開催されました。今回は「近江のオコナイ」と題して、この研究の第一人者である長浜市曳山博物館副館長の中島誠一先生にご登壇頂きました。
「オコナイ」とは近江の中では湖北地域と甲賀地域に今も伝わる祭礼で、巨大な餅を飾り、造花による飾り付け、乱声(らんじょう)や牛玉宝印(ごおうほういん)の授与など五穀豊穣や大漁、家内安全などを祈願する特徴的な儀礼を行う。また、天台宗との関わりも指摘され、近江に限らず西日本を中心としながら全国に広がっている。など、はじめに「オコナイ」の特徴を詳しく解説されました。
後半はスライドで近江各地の特徴的な「オコナイ」の様子を投影され、飾りの荘厳さや、餅の大きさ、また籤(くじ)や順番で決まった「トウヤ」を中心に厳格に行われる儀礼について臨場感を持って解説頂きました。
近江は宮座の宝庫と呼ばれ、鎮守の森の神社を中心とした祭礼が多く残っていますが、「オコナイ」という仏教色が濃い新春の行事が形を異にしながらこのように残っていることを知り、近江の伝統文化の深さを改めて感じました。

報告:近江学研究所研究員 加藤賢治

連続公開講座『近江~魂のかたち―木彫―』開講しました。

講座名 『近江~魂のかたち―木彫―』
日 時 平成23年10月1日(土) 10:40~12:00
場 所 成安造形大学 聚英ホール
講 師 江里康慧氏(仏師)
対 談 加藤賢治(近江学研究所研究員)

「近江のかたちを明日に繋ぐ」連続公開講座の最終章「魂のかたち」ということで、今回は京都岡崎の工房で「仏師」として活躍される江里康慧先生にご登場いただきました。初めの50分間は基調講演として江里先生が仏像彫刻の歴史と近江の関わりについて話されました。奈良時代から平安時代までの彫刻史をその時代背景とともに丁寧に解説され、その中で、混迷の奈良時代から平安時代に入って最澄が登場した。その影響の強い天台様式の仏像は、「一切衆生悉有仏性(すべてのものに仏性が宿り皆が仏になれる)」という天台の教えに基づき、仏性が宿る白木の木造仏が多くなる。ここ近江にはそのような仏様が多く伝わっているとその要旨を語られました。
 その後、近江学研究所研究員の私加藤が、対談者として登壇させていただき、仏師としての江里先生にスポットを当て、仏像制作の様子をたずねました。
霊性をおびた木を選ぶことや、鑿(のみ)を入れる前に願主を迎えて鑿入式という儀式を行うこと、截金(きりがね)という技法を使い装飾することなどたくさんの貴重なお話を聞くことができました。
 中々普段うかがうことのできない精神性の深い仏像制作の一場面を知ることができ、140名を超える受講者の方々も満足そうに見えました。
報告者:近江学研究所研究員 加藤賢治

公開講座「近江の寺と城」開講しました

講座名:「近江の寺と城」
日 時:平成23年9月24日(土) 10:40~12:00
場 所:成安造形大学 聚英ホール
講 師:下坂守氏(奈良大学 教授)

中世と呼ばれる鎌倉、室町時代は強大な中央権力が弱く、寺院や町衆など様々な新興勢力の台頭など非常に複雑で捉えにくい時代である。その中世を僧侶(寺)と武士(城)の対立を中心として奈良大学文学部教授下坂守先生に語っていただきました。
下坂先生は、中世は寺院の勢力が最も強く、大きく時代の流れに影響を与えたということを前提に、「仏法(仏教勢力)」と「王法(朝廷)」のバランスによってこの時代が成立していたと多くの文献を紹介しながらこの時代の特徴を述べられました。
やがて、新興の武士団勢力が台頭してくると、武装化した寺院と武士団の対立が激化し、寺院建築物も城塞化していった。交通の要衝にあたる近江は観音寺城に代表されるように寺院要塞がたくさんあったことで知られる。そしてその最終戦争として織田信長の比叡山延暦寺の焼き討ちが行われ、中世の時代が終焉を迎えた。
下坂先生はこのような視点で中世の時代を説明され、織田信長は延暦寺の焼き討ちは単に、武士に反旗を翻したから行ったのではなく、仏教勢力と朝廷の権力(仏法と王法)を根本から覆すために行ったと中世の時代の最後をまとめられました。
報告:近江学研究所研究員 加藤賢治

近江学フォーラム会員限定講座「江戸の里山を歩く」開講しました。

講座名:「江戸の里山を歩く」
日 時:平成23年9月17日(土) 10:40~12:00
場 所:成安造形大学 聚英ホール
講 師:水本邦彦氏(長浜バイオ大学 教授)

近世江戸時代の農村の風景はいかなるものであったのか。浮世絵に見る山の風景は現代のように木々が茂っている山が少なく、土砂山や草山が描かれている。近世農村生活に関する最新の研究成果を京都府立大学名誉教授、長浜バイオ大学教授で本学附属近江学研究所学外研究員である水本邦彦先生に報告いただきました。
 近世農業史や生活史の中に、「草肥(くさごえ)」や「刈敷(かりしき)」という草や小木を利用して農地に栄養を与える農法が見え、当時は草や小木を得るための草山や柴山が農村に必要とされていたことがわかる。また、別の文献からはその草山を巡って争いごとが頻繁に起こった記録も残っている。など、浮世絵の風景にあるように今とは違った風景が江戸時代にあったと述べられました。
 今まで、仰木の棚田や鎮守の森の風景を見ながら江戸時代の風景を追体験してきましたが、水本先生の講演でその考え方を改めなければならないと知らされました。また、江戸時代にも人口が増える時期があり、多くの木々が伐採されると洪水や土砂災害が発生し、人々を苦しめたという史実も読み取れました。
 その規模の大小は別として、いつの時代も人々は自然を改造し、そのしっぺ返しを受けてきたことも今回の報告で改めて知ることができました。
報告:近江学研究所研究員 加藤賢治

連続公開講座「近江~風景のかたちー心象絵図ー」開講しました

講座名 『近江~風景のかたち―心象絵図―』
日 時 平成23年7月9日(土) 10:40~12:00
場 所 成安造形大学 聚英ホール
講 師 上田洋平氏(滋賀県立大学地域づくり調査研究センター研究員)
対 談 永江弘之

好評をいただいております今年度の連続公開講座「近江のかたちを明日につなぐ」シリーズ4回目となりました今回(7月9日)は滋賀県立大学地域づくり教育研究センター研究員の上田洋平先生をお招きして、心象絵図についてお話しいただきました。
基調講演は2008年に上田先生と本学の学生さんが共に取り組みをさせていただきました「南比良ふるさと絵屏風」について絵解きをしていただくかたちで始まりました。
この絵屏風は地域のお年寄りを中心に聞き取りをして、特に印象に残った大切なものを丁寧に描き込んでいくというもので、50年〜60年、70年くらいの少し昔の懐かしい人々の暮らしがとけ込んでいます。
講座の中で上田先生は、この取り組みは単に懐かしいものを描くだけのものではなく、聞き取りをすることや、完成した絵屏風をみんなで見ながら会話をするなど、お年寄り同士やお年寄りと次世代を担う人々とのコミュニケーションの機会となる大変重要なプロジェクトであるとその意義を強調されました。
後半は近江学研究所研究員の永江弘之先生が聞き手となり、記録と記憶の違いや体験したものを思い出しそれを表現するというこの絵屏風の魅力について問いかけられました。上田先生はかつて体験した自分にとって忘れることのできない大切な物事、すなわち過去の記憶を引き出し、お年寄りがそのことを共有して交流するということは本人たちにとっても地域にとっても有意義なことであり、未来の社会のあり方を考えるヒントにもなると語られました。
人間は入ってきた情報のほとんどをどんどん忘れていきます。逆に今記憶に残っているということは大変大切なことであるということが言えます。その大切が詰まった絵屏風。やさしい語り口調で解説いただき、150名を越えるたくさんの参加者の皆さんは上田先生から大切なものをいただかれたのでは・・・。
報告:近江学研究所研究員 加藤賢治

近江学フォーラム会員限定講座「中世、仏像と人々の時代」開講しました。

講座名:「中世、仏像と人々の時代―銘文から仏像を取り巻く社会を探る―」
日 時:平成23年7月2日(土) 10:40~12:00
場 所:成安造形大学 聚英ホール
講 師:高梨純次氏(滋賀県立近代美術館 学芸課長

平安時代後半(十一世紀)から鎌倉時代を中心として、仏像に記された銘文や胎内納入品の記録などから、仏像を取り巻く社会や信仰する人々の思いなどを考察しようと、日本彫刻史がご専門で滋賀県立近代美術館の高梨純次先生に語っていただきました。
 仏像に刻まれた銘文を読むといつ誰がどこで何のためにこの仏像を制作したのかという様子が分かり、生産性の高い地域である近江の仏像にはしっかりとした銘文が残る仏像が多い。また、近江の中世の仏像には一つの仏像に多くの人名を見ることができる。と中世近江の仏像の概略を語られることから始まりました。
 その上で、延久六年(一〇七四)称念寺の木造薬師如来立像、長承二年(一一三三)善明寺の木造阿弥陀如来坐像、嘉応二年(一一七〇)福寿寺の木造千手観音立像など一一世紀から一二世紀の仏像に多くの人名が見られるが、おそらく仏像を中心として地域社会の血縁が結ばれ、信仰とともにその地域が一つとなっていた証として考えられると述べられました。
 今回の講座で、現代社会においても小さなコミュニティーの存在が重要視されていますが、中世の村落では仏像を中心として固く結束した理想のコミュニティーが存在していたことを知りました。
 
報告:加藤賢治(附属近江学研究所研究員)

連続公開講座「近江~風景のかたちー琵琶湖と丸子船ー」開講しました

講座名 『近江~風景のかたち―琵琶湖と丸子船―』
日 時 平成23年6月25日(土) 10:40~12:00
場 所 成安造形大学 聚英ホール
講 師 津田直氏(写真家)
対 談 木村至宏   

江戸時代から戦前まで琵琶湖の湖上交通の主役であった「丸子船」。現在その勇姿を湖上に見ることはできません。丸子船が消えてしまった琵琶湖の風景を写し、展覧会を通して「漕(こぎ)」という一冊の本を出版したという写真家津田直(つだなお)氏を講師に迎えました。
はじめの50分間は津田先生の著書「漕」の解説をスライド中心に行っていただき、斬新な写真表現の世界と近江の風景について語っていただきました。
津田先生ご本人がかつては船でしか行くことのできないことから陸の孤島と呼ばれた湖北菅浦集落に入り、現代にはなくなってしまった丸子船の幻影を追いつつ、須賀神社の参道の階段を裸足で登った経験から、今の風景を目で見るのではなくその場の歴史や人の営みを足裏で感じ取るという感覚をそこで学んだと話されました。
また、丸子船をつくる技術を持つ造船所を訪ねたとき、その船大工の棟梁が木造船を造る材料となる木にまず祈りを捧げてから切り出すということを聞き、船自体が森であると感じたなど、丸子船自体が単なる湖上交通に使われる道具ではなく、それを使用する人々の一部として同化しているように思ったと、独自の自然観が語られました。
その後、附属近江学研究所木村至宏所長との対談があり、木村所長は「見えないものを撮る」という津田先生の写真家としての活動の方向性に共感され、過去の暮らしの知恵を今後の生活に活かせるよう様々な取り組みを続ける近江学研究所の指針と重なって見えたと感想を述べられました。

報告:近江学研究所研究員 加藤賢治

近江学フォーラム会員限定講座がスタートしました!

講座名:「近江と渡来人」
日 時:平成23年6月18日(土) 10:40~12:00
場 所:成安造形大学 聚英ホール
講 師:井上満郎 氏(京都市歴史資料館 館長)

近江学フォーラム会員限定講座がスタートしました!

近江学研究所が主催します会員制の「近江学フォーラム」は、おかげさまで昨年よりまして多くの方々に参画いただいております。そのフォーラムの中心的な事業としまして会員限定講座を開講しています。
6月18日(土)はその第1回目の講座が開講されました。全6回ある限定講座のトップは「近江と渡来人」と題して、日本古代史がご専門で京都市歴史資料館館長の井上満郎先生にご登壇いただきました。
講座のはじめに、下にアジア大陸があり上に日本列島が横たわっているという大変珍しい位置関係の地図が紹介され、「このように見ると、日本列島は島国として独立しているというよりもアジア大陸の一部に見えませんか」と問いかけられました。日本海側沿岸部で「貸泉」という中国の貨幣が多数発掘されていることからも縄文、弥生という古代から大陸文化は日本に入ってきており、大陸と日本の間には大きな隔たりがなかったと考えられると持論を語られました。また、今に伝わる文献から見ると古代の国際ルートは朝鮮半島から北陸へ入り、近江を経て山城(京)、大和へとつながっていたことがわかり、近江国はその通り道にあたり、文化が往来し、多くの渡来人が定住、都にもなったと近江の地理的な重要性を強調されました。
最後に、古代の日本の人口に触れられ、当時の渡来人の人口の割合から考えると、現在の日本人もその多くは大陸民族の子孫であるといえると話され、海を隔て遠くにあると考えていた大陸文化を大変身近に感じることができました。

報告:近江学研究所研究員 加藤賢治

連続公開講座「近江~大地のかたちー穴太衆積みー」開講しました

講座名 『近江~大地のかたち―穴太衆積み―』
日 時 平成23年6月11日(土) 10:40~12:00
場 所 成安造形大学 聚英ホール
講 師 粟田純司氏(穴太衆第十四代目石匠)
対 談 大岩剛一

6月11日(土)連続講座「近江のかたちを明日につなぐ」第1弾の2回目が、「大地のかたち~穴太積み」と題して開催されました。今回は一般から230名の応募があり、聚英ホールが満席となりました。
当日の講座は近江学研究所大岩剛一研究員(本学住環境デザインコース教授)のコーディネイトで「穴太衆」第14代目石匠の粟田純司さんをお迎えし、講演と対談というかたちで行ないました。
はじめの40分間は粟田さんによる講演で、湖西地域にある古墳群にある横穴式石室見られる石積みにその原点があり、信長の安土城築城により全国の城にその技術が広がったという「穴太衆積み」の起源や、野面積みといわれる「穴太衆積み」独特の技法もスライドによって解説されました。
対談では、大岩研究員がその技術を裏で支える精神的な部分について粟田さんに質問され、粟田さんは師匠である先代に「石の声を聞け」厳しく指導されながらその境地を知ることができたと語られました。石を生き物のように身体で感じ、数式では計りきれないファジーな感覚によって何百年と崩れることのない石積みをつくるという「穴太衆積み」の技術は非常に素晴らしいと大岩研究員がまとめられました。

報告:近江学研究所研究員 加藤賢治

近江学研究所主催連続公開講座始まる!

講座名 『近江~大地のかたち―信楽焼―』
日 時 平成23年5月28日(土) 10:40~12:00
場 所 成安造形大学 聚英ホール
講 師 奥田博土氏(元信楽陶芸作家協会会長)
対 談 辻喜代治

5月28日(土)、近江学研究所では今年度初めての試みとして一つのテーマで講座を結ぶ連続公開講座を開講することになりました。
「近江のかたちを明日につなぐ」というテーマで、近江学研究所研究員がコーディネイターとして造形家を招聘し、第1弾「大地のかたち」、第2弾「風景のかたち」、第3弾「魂のかたち」と3つのステージに別け、それぞれ2回ずつ連続講座を開講します。
この日はその第1弾の1回目、「大地のかたち-信楽焼-」と題し、辻喜代治研究員がコーディネイト、現在国際的に活躍されている陶芸家奥田博土(おくだひろむ)氏を迎えて、現代陶芸の諸相について語っていただきました。
奥田氏は江戸期から代々続く信楽の献上茶壷をつくる窯元に生まれ、奥田三衛門家15代目として陶芸をはじめられました。1969年の大阪万博では、太陽の塔の裏面にあるタイル地の「黒い太陽の顔」を故岡本太郎氏とともに制作され、これを転機として陶彫の世界に入られました。以後、アメリカやヨーロッパを舞台に現代アート作品を次々に発表され、最近は信楽高校でのワークショップなどの開催など、後進の造形教育にも力を入れておられます。講座では、これらのスライドに加えて、自然環境にもう一度真摯な目を向けようというメッセージがこもった直近の作品なども含め、たくさんのスライドを紹介していただきました。
最後に辻喜代治研究員は、信楽から一歩も出ることなくここの土にこだわり、そしてその思想は常に未来を見ているという奥田氏はこの講座のテーマである「近江のかたちを明日へつなぐ」をいままさに実践されているとその制作活動を賞賛されました。

報告:附属近江学研究所研究員 加藤賢治

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