おうみブログ
近江学研究所研究員が、近江にまつわるさまざまな情報を発信するブログです。
公開講座
近江学研究所研究員が、近江にまつわるさまざまな情報を発信するブログです。
公開講座
5月26日・27日に淡海の夢2012「堅田・湖族の郷」を開催しました。
両日あわせて約40名の一般の参加者に、本学イラストレーション領域の学生さんたちも参加し賑やかな写生会となりました。
天候も両日とも晴れで暑い日差しのなかでしたが、参加者の皆さんは魅力的な堅田の町の写生を楽しんでおられました。
講評会では、一般参加者の力作を永江先生(両日担当)・待井先生(26日担当)・岸田先生(27日担当)が丁寧にかつわかりやすく制作のアドバイスをされ、参加者のみなさんにとって有意義な写生会になったと思います。
日時:2012年5月12日(土)10:40〜12:10
場所:成安造形大学 聚英館3階 聚英ホール
講師:成子 哲郎 氏 対談:小嵜 善通(本学教授)
タイトル:「近江〜素材のかたち 成子和紙」
今年度の連続講座「近江のかたちを明日につなぐ」の第1回目。講師には、和紙のなかでも「紙の王様」とも呼ばれる雁皮(がんぴ)紙を大津市桐生の郷で漉いておられる成子哲郎氏をお迎えしました。成子氏は、雁皮紙を江戸時代後期から製造する成子紙工房4代目で、「全国手すき和紙連合会」の会長も務められ、手漉き和紙の普及や保存継承に務めておられます。
当日は雁皮や楮(こうぞ)、三椏(みつまた)など、和紙の原材料となる樹皮サンプルや、紙漉きに用いる諸道具などを用いて、紙漉きの工程を説明いただき、後半では洋紙の原材料(パルプ)を用いた紙漉き実演も行っていただきました。受講者の皆さんには、この実演を通して和紙と洋紙との大きな違いを理解していただけたものと思います。また、雁皮紙、楮紙、葦(よし)紙のサンプルが受講者に配られ、和紙にじかに触れることにより、各々の紙質の違いを実感していただくことができました。
また、琵琶湖の葦を用いた葦紙製造過程において発生する環境問題や、日本画制作における和紙の重要性など、和紙製造の現状を熟知する成子氏ならではの話題や意見が次々と語られ、和紙への再認識を促された講座となりました。
附属近江学研究所 研究員 小嵜善通
日時:2012年4月28日(土)10:40~12:10
場所:成安造形大学 聚英館3階 聚英ホール
講師:鷲田 清一 氏
タイトル:「アートと暮らし」
附属近江学研究所は今年度で開設5年目を迎え、公開講座の内容もより充実させようと講座の時間を80分から90分に延長するなど、取り組みを進めています。その初回となる今回は、特別公開講座として位置づけ、哲学者で前大阪大学総長、現大谷大学教授の鷲田清一先生を講師に迎えました。
講座のタイトルは「アートと暮らし」。鷲田先生は冒頭で「生活の中にアートを取り入れようという話ではなく、アートに暮らしを取り入れる話をします」と宣言され、社会学的な視点で社会におけるアートの役割を話されました。
鷲田先生は、かつて芸術家と呼ばれた人々の活動が現代においては音楽やパフォーマンスなど大きく広がり、アーティストという名で、様々な活動を展開しているとアートの現状を報告されました。その中で、2003年の秋、大阪ミナミに眠る巨大地下空間を舞台に繰り広げられた「湊町アンダーグラウンドプロジェクト」を具体例に挙げられ、「若いボランティアスタッフがそのプロジェクトに参加する事で、学校という教育機関では学べないような貴重な経験をして成長する様子を目の当たりにした。アートプロジェクトは常に0(ゼロ)からスタートするため、参加するスタッフや企画者は大変な苦労を強いられる。従って、そこから得る成果は無限大に広がる」とアートプロジェクトの力を強調されました。
また、「昔の人は出産から始まり、しつけや教育、病を治す事、葬式を行う事まで生老病死のすべてのケアを自分たちで行ってきた。しかし、近代化が進んだ現代社会では、それらを国や自治体、企業が合理的に担うようになり、生活が便利になった一方で、個人ではまったく何もできなくなってしまった。」と指摘され、そのような弱い現代人を強くする機会をつくるのがアートプロジェクトの役割であると語られました。
最後に「そのようなプロジェクトを担うアーティストの卵を育てている成安造形大学の更なる活躍を願っています」と期待が込められた熱いメッセージをいただきました。
近江学研究所 研究員 加藤賢治
2012年度附属近江学研究所 公開講座 応募申込受付中です。
附属近江学研究所の公開講座は、2012度も、日本を代表する研究者を招聘しての特別公開講座や、昨年に引き続いての連続公開講座「近江のかたちを明日につなぐ」、そして仰木・坂本・堅田を舞台とした写生会など多彩なラインナップとなっております。
ぜひお申込ください。
<2012年度近江学研究所 公開講座>
【特別公開講座】
4月28日(土)「アートと暮らし」
講師:鷲田 清一氏(前大阪大学総長) 応募締切日 : 4/13(金)
6月9日(土)「私の見た近江」
講師:山折 哲雄氏(宗教学者) 応募締切日 : 5/25(金)
【連続講座 近江のかたちを明日につなぐ】
5月12日(土)「近江~素材のかたち -近江和紙-」
講師:成子 哲郎氏((有)成子紙工房代表取締役)×小嵜善通(本学教授・本研究所研究員)
応募締切日 : 4/20(金)
7月14日(土)「近江~まとうかたち 湖東の織物-近江上布-」
講師:大西 實氏(伝統工芸士)×河原林美知子(ファイバーアート作家・本研究所客員研究員)
応募締切日 : 6/29(金)
9月15日(土)「近江~魂のかたち -木地師の里のものづくり-」
講師:小椋 昭二氏(木地師)×辻 喜代治(本学教授・本研究所研究員)
応募締切日 : 8/31(金)
11月10日(土)「近江~食のかたち -ローカルフード-」
岩田 康子氏((有)Blueberry Fields紀伊國屋 代表取締役)×大岩剛一(本学教授・本研究所研究員)
応募締切日 : 10/26(金)
12月1日(土)「近江~風土のかたち -琵琶湖の原風景-」
講師:ブライアン・ウィリアムズ氏(風景画家)×永江弘之(本学准教授・本研究所研究員)
応募締切日 : 11/16(金)
【連続講座(写生会) 淡海(おうみ)の夢2012】
5月26日(土)「堅田・湖族の郷写生会」
講師:永江 弘之(本学准教授・本研究所研究員)ほか本学教員が参加予定
応募締切日 : 5/11(金)
5月27日(日)「堅田・湖族の郷写生会」
講師:永江 弘之(本学准教授・本研究所研究員)ほか本学教員が参加予定
応募締切日 : 5/11(金)
6月23日(土)「仰木・棚田写生会」
講師:永江 弘之(本学准教授・本研究所研究員)ほか本学教員が参加予定
応募締切日 : 6/8(金)
6月24日(日)「仰木・棚田写生会」
講師:永江 弘之(本学准教授・本研究所研究員)ほか本学教員が参加予定
応募締切日 : 6/8(金)
10月27日(土)「坂本・石垣と里坊の町写生会」
講師:永江 弘之(本学准教授・本研究所研究員)ほか本学教員が参加予定
応募締切日 : 10/12(金)
10月28日(日)「坂本・石垣と里坊の町写生会」
講師:永江 弘之(本学准教授・本研究所研究員)ほか本学教員が参加予定
応募締切日 : 10/12(金)
講座名 『近江~魂のかたち―絵馬―』
日 時 平成23年11月12日(土) 10:40~12:00
場 所 成安造形大学 聚英ホール
講 師 吉村俊昭(本学教授・近江学研究所研究員)
対 談 小嵜善通(本学教授・近江学研究所研究員)
今年から始まりました連続公開講座「近江のかたちを明日につなぐ」シリーズも今年最後の講座となりました。最後を締めくくるこの日は本学教授で附属近江学研究所の二人の研究員に担当いただきました。
タイトルは「近江〜魂のかたち〜 絵馬」。はじめに本学で日本美術史の教鞭をとる小嵜善通研究員が絵馬の起源や近江に現存する絵馬やその種類について解説され、続いて絵馬などの板絵の表現技法の研究と修復を手がける吉村俊昭研究員が、近江の絵馬の特徴や修復の技法について丁寧に語っていただきました。
「絵馬の起源は奈良時代にさかのぼり、呪術的な要素として天変地異や疫病を鎮めるために生きた馬を神に捧げることが行われ、やがて絵に描かれ奉納されるようになった。」「日野の馬見岡綿向神社や愛荘町の豊満神社には非常に貴重な大絵馬が存在し、綿向神社には厩と猿・日野祭礼・歌舞伎・馬、豊満神社には平敦盛・牛若丸弁慶・黒馬・坂上是則など様々な画題が描かれている。」など、興味深い「絵馬」のすべてが二人の解説の中で紹介されました。
最後に文化財の模写について、模写の種類や、模写の筆法、絵の具の調合の話しなど、貴重な話を聞くことができ、普段覗くことのできない模写の現場について知る機会となりました。
報告:近江学研究所研究員 加藤賢治
10月23日(日)に附属近江学研究所主催の淡海の夢2011-坂本・石垣と里坊の町写生会を開催しました。残念ながら22日(土)は雨天中止になりましたが、当日はなんとか天候も持ち直し25名の方にご参加を頂きました。写生終了後に正源寺にて本学教員永江弘之・待井健一による講評会を行い、無事終了しました。今年度の写生会は今回をもって終了いたしました。ご参加いただいた方々には御礼申し上げます。
なお12月3日(土)~12月17日(土)に本学ギャラリーアートサイトで開催される公募展「棚田・里山、湖辺の郷 淡海の夢2011風景展」の出展を現在募集中です。応募資格は問いません。ご応募お待ちしております。申込締切は11月7日(月)です。
講座名 『近江~魂のかたち―木彫―』
日 時 平成23年10月1日(土) 10:40~12:00
場 所 成安造形大学 聚英ホール
講 師 江里康慧氏(仏師)
対 談 加藤賢治(近江学研究所研究員)
「近江のかたちを明日に繋ぐ」連続公開講座の最終章「魂のかたち」ということで、今回は京都岡崎の工房で「仏師」として活躍される江里康慧先生にご登場いただきました。初めの50分間は基調講演として江里先生が仏像彫刻の歴史と近江の関わりについて話されました。奈良時代から平安時代までの彫刻史をその時代背景とともに丁寧に解説され、その中で、混迷の奈良時代から平安時代に入って最澄が登場した。その影響の強い天台様式の仏像は、「一切衆生悉有仏性(すべてのものに仏性が宿り皆が仏になれる)」という天台の教えに基づき、仏性が宿る白木の木造仏が多くなる。ここ近江にはそのような仏様が多く伝わっているとその要旨を語られました。
その後、近江学研究所研究員の私加藤が、対談者として登壇させていただき、仏師としての江里先生にスポットを当て、仏像制作の様子をたずねました。
霊性をおびた木を選ぶことや、鑿(のみ)を入れる前に願主を迎えて鑿入式という儀式を行うこと、截金(きりがね)という技法を使い装飾することなどたくさんの貴重なお話を聞くことができました。
中々普段うかがうことのできない精神性の深い仏像制作の一場面を知ることができ、140名を超える受講者の方々も満足そうに見えました。
報告者:近江学研究所研究員 加藤賢治
2011年度後期公開講座 受講申込み受付中です。近江学研究所主催の公開講座は以下の通りです。
附属近江学研究所設立3周年記念講演
第3弾「近江の寺と城-中世の湖国に生きた人々-」
実施日時:平成23年9月24日(土)10:40~12:00
応募締切日:9月9日(金)必着
講師名:下坂守氏(奈良大学教授)
連続講座(講演・対談)「近江のかたちを明日につなぐ」
第3弾「近江~魂のかたち」
「近江~魂のかたち-木彫-」
実施日時: 平成23年10月1日(土)10:40~12:00
応募締切日:9月9日(金)必着
講師名: 江里康慧氏 (仏師)
対談:加藤賢治(本研究所研究員)
「近江~魂のかたち-絵馬-」
実施日時: 平成23年11月12日(土)10:40~12:00
応募締切日:10月28日(金)必着
講師名:吉村俊昭(本学教授)
対談:小嵜善通(本学教授・本研究所研究員)
淡海の夢2011
『淡海の夢2011-坂本・石垣と里坊の町写生会』
セ:10月22日(土) ソ:10月23日(日)
9:30~17:30※雨天中止
会場:滋賀県大津市坂本周辺
応募締切日:10月3日(月)必着
講師:永江弘之(本学教授・近江学研究所研究員)
公募展「淡海の夢2011 風景展」についてはこちらをご覧ください。
講座名:「近江の寺と城」
日 時:平成23年9月24日(土) 10:40~12:00
場 所:成安造形大学 聚英ホール
講 師:下坂守氏(奈良大学 教授)
中世と呼ばれる鎌倉、室町時代は強大な中央権力が弱く、寺院や町衆など様々な新興勢力の台頭など非常に複雑で捉えにくい時代である。その中世を僧侶(寺)と武士(城)の対立を中心として奈良大学文学部教授下坂守先生に語っていただきました。
下坂先生は、中世は寺院の勢力が最も強く、大きく時代の流れに影響を与えたということを前提に、「仏法(仏教勢力)」と「王法(朝廷)」のバランスによってこの時代が成立していたと多くの文献を紹介しながらこの時代の特徴を述べられました。
やがて、新興の武士団勢力が台頭してくると、武装化した寺院と武士団の対立が激化し、寺院建築物も城塞化していった。交通の要衝にあたる近江は観音寺城に代表されるように寺院要塞がたくさんあったことで知られる。そしてその最終戦争として織田信長の比叡山延暦寺の焼き討ちが行われ、中世の時代が終焉を迎えた。
下坂先生はこのような視点で中世の時代を説明され、織田信長は延暦寺の焼き討ちは単に、武士に反旗を翻したから行ったのではなく、仏教勢力と朝廷の権力(仏法と王法)を根本から覆すために行ったと中世の時代の最後をまとめられました。
報告:近江学研究所研究員 加藤賢治
講座名 『近江~風景のかたち―心象絵図―』
日 時 平成23年7月9日(土) 10:40~12:00
場 所 成安造形大学 聚英ホール
講 師 上田洋平氏(滋賀県立大学地域づくり調査研究センター研究員)
対 談 永江弘之
好評をいただいております今年度の連続公開講座「近江のかたちを明日につなぐ」シリーズ4回目となりました今回(7月9日)は滋賀県立大学地域づくり教育研究センター研究員の上田洋平先生をお招きして、心象絵図についてお話しいただきました。
基調講演は2008年に上田先生と本学の学生さんが共に取り組みをさせていただきました「南比良ふるさと絵屏風」について絵解きをしていただくかたちで始まりました。
この絵屏風は地域のお年寄りを中心に聞き取りをして、特に印象に残った大切なものを丁寧に描き込んでいくというもので、50年〜60年、70年くらいの少し昔の懐かしい人々の暮らしがとけ込んでいます。
講座の中で上田先生は、この取り組みは単に懐かしいものを描くだけのものではなく、聞き取りをすることや、完成した絵屏風をみんなで見ながら会話をするなど、お年寄り同士やお年寄りと次世代を担う人々とのコミュニケーションの機会となる大変重要なプロジェクトであるとその意義を強調されました。
後半は近江学研究所研究員の永江弘之先生が聞き手となり、記録と記憶の違いや体験したものを思い出しそれを表現するというこの絵屏風の魅力について問いかけられました。上田先生はかつて体験した自分にとって忘れることのできない大切な物事、すなわち過去の記憶を引き出し、お年寄りがそのことを共有して交流するということは本人たちにとっても地域にとっても有意義なことであり、未来の社会のあり方を考えるヒントにもなると語られました。
人間は入ってきた情報のほとんどをどんどん忘れていきます。逆に今記憶に残っているということは大変大切なことであるということが言えます。その大切が詰まった絵屏風。やさしい語り口調で解説いただき、150名を越えるたくさんの参加者の皆さんは上田先生から大切なものをいただかれたのでは・・・。
報告:近江学研究所研究員 加藤賢治