松井 章先生

松井 章先生


9月29日(土)の近江学フォーラム会員限定講座は「琵琶湖の湖底遺跡」と題して、奈良文化財研究所埋蔵文化財センター長松井章先生に講義いただきました。
 松井先生は動物考古学、環境考古学がご専門で、特に縄文時代の貝塚の研究を続けてこられました。この日は、1990年に粟津湖底遺跡の発掘調査に参加された時の調査報告を中心に、湖底遺跡の魅力について語られました。
 湖底遺跡は国際的にウェットランドと呼ばれ、湿気によって保たれた湿地特有の遺物が発掘されることで注目され、特に琵琶湖の粟津湖底遺跡は9000年前の縄文早期の遺跡として世界的なレベルの研究報告となった。縄文早期のこの遺跡には陸上の遺跡では分解されて残らない植物性の遺物、特にドングリやトチの実、ヒシなどが良質な形で大量に出土し、層を成していた。これは、一家族が年月をかけて出したものではなく、集落総出で木の実を採取して一斉に皮むき等の加工をしたと考えられる。また、縄文中期の地層からはセタシジミの貝殻大量に出土し、その貝殻の断面から晩夏から初秋に採取されていた事もその調査で解明された。この遺跡の遺物には他の貝塚に見られるように、魚骨や獣骨などが極端に少ないことから、ここが単なるゴミ捨て場ではなく、近辺に集住した人々の共同作業場であったと考えられるとまとめられました。
 講演の最後に、国立の機関である奈良文化財研究所埋蔵文化財センターの所長である松井先生は、文化財レスキュー隊の隊長を務められており、東日本大震災で被災し流出した文化財を探索する任務に従事されているお話がありました。大震災の爪痕はこのように文化財保護の分野にも及び、完全な復興にはまだまだ時間がかるという現状を知らされました。

日時:2012年9月29日(土)10:40~12:10
場所:成安造形大学 聚英館3階 聚英ホール
講師:松井 章氏 (奈良文化財研究所 埋蔵文化財センタ―長)