草津川の上流、鶏冠(けいかん)山、金勝(こんぜ)山、竜王山と連なる山々は金勝アルプスと呼ばれ親しまれています。その中でも中心となる竜王山に登ってきました。
近江には竜と名の付く山や地名がたくさんありますが、これは農耕と結びついた水の神である竜にまつわる信仰によると考えられています。その代表である竜王山には、かつて栄えた仏教文化の遺物が多く残され、また、山頂付近には風化した奇岩があらゆるところに露出するという神秘的で特異な風景を醸し出しています。用意されています。
魅力たっぷりの登山路は大津市上田上(かみたなかみ)の上桐生のバス停から始まります。
はじめに待ってくれているのが砂防ダムとして明治15年にオランダ人の手によって建設された「オランダ堰堤」。近代建築の遺産として大切に残されています。
次に現れたのが通称「さかさ観音」呼ばれる磨崖仏です。巨岩に彫られた三尊形式の磨崖仏が何らかの力によって壁面がずり落ち逆さの位置で落ち着いたものです。
そこを過ぎ、第二名神高速道路をくぐって山に入っていくと、狛坂廃寺跡に出ます。そこではかなり古い年代を感じさせる堅牢な石垣と、「狛坂磨崖仏」という県内で最も著名な磨崖仏に出会いました。奈良時代に遡る作風であるとされていますが、様相が日本独自のものとは異なり、朝鮮文化の影響を強く持っているため、じっくりとこの磨崖仏に対峙すると、異国の山林に迷い込んだ錯覚に陥りそうです。
そこを後にして、山頂を目指します。徐々に風化した奇岩が見え始め、山頂への分岐点を過ぎると、茶沸観音と呼ばれる岩に刻まれた可愛い石仏と対面しました。そこから山頂までの間に重ね岩と呼ばれる摩訶不思議な自然造形物を見ることが出来ました。
いよいよ山頂です。山頂付近には八大龍王をお祭りする小さな祠があり、この龍王に因んでこの山を竜王山と名付けたと考えられています。
そこから尾根筋を真っ直ぐ歩くと「金勝寺」(こんしょうじ)に至ります。今回はこの奈良時代から伝わる古寺まで足をのばさず、来た道を戻って鶏冠山に繋がる尾根道を早足であるきました。途中に眺められる奇岩・巨岩はかなりのもので、中でも「耳岩」や「天狗岩」は特に大きく、目を引きます。
この日は天候が悪く、帰路についたと同時に雷雨に遭い、ずぶ濡れになりましたが、この日見たものはすべてが新鮮で魅力的でした。おかげさまで調べものが増えました。
成安造形大学附属近江学研究所 研究員 加藤賢治